坂と街灯


家まで送るよ なんとなく

散歩したかったから

いつもの坂は塀の右手

右手には きっと さわれない左手


ねぇ なんか言ってよ 

黙ってよ 思ってて 

気まぐれな猫が

通り過ぎていって


言わない約束

踏み込めない線

あいまいなカーブに

まばたきしてる街灯


七夕の夜が曇ってようが

星は関係ないよねって

ふざけた話をして笑う

あっちでよろしくやってろよって


口に出さなきゃ何もない

ことにもなれない

あの日の掌 確かに


とまらない鐘の音

めくられる日付

面影 飛ばして

風に 揺れる街灯


あなたの身体と宙に浮いて

透明なまま 唇がふれる

もう一度戻せるものならば

もう二度と戻れないならば


あきらめ よくないな

あきらめが よすぎたかな

あきらめ よくないな

あきらめが よすぎたかな


お願い ふたりを

ただのありふれた

ふたりに戻して

お願い


お願い ふたりを

ただのありふれた

ふたりにだけは

もうしないで

お願い


こぼれたミルク色の

川の流れ くだれば

ふたつの足音 

刻め 


近くで 遠くで

向こう岸のようで

人影 呼ぶ声

とまれない 坂と街灯